僕が毎日通る道に、いつも綺麗な菊の花が置かれています。
一輪や二輪じゃありません。
花束のように束ねられていて、色鮮やかで新鮮なまま、綺麗にそこにあるんです。
花だけじゃない。
その隣にはお菓子や飲み物まで並べられていて、まるで誰かの帰りを待っているかのように見えます。
けれど、それは明らかに“供え物”でした。
実はそこ、数年前に交通事故で男性の方が亡くなった場所なんです。
どうして男性だとわかるのか?
それには理由があります。
ある早朝、僕はそこで立ち止まる親子を見かけたんです。
小学校低学年くらいの子どもと、そのお母さんらしき女性。
何度も見かけているけれど、その場所に父親の姿だけは一度もない。
そう、何年も、ずっとその場所に花を手向けていたのは、その母子ふたりでした。
きっと亡くなったのは、彼らの父親なのでしょう。
命を落とした場所で、母と子だけが立ち尽くしている。
そこは本来ならもっと賑やかで幸せな時間が流れていたはずなのに、今は沈黙の空気だけが流れています。
父親から返事はありません。
どんな言葉をかけても、どれだけ祈っても、もう声は返ってこない。
そこに残っているのは、父親の想いと、家族の悲しみ。
そして束になった、綺麗な菊の花です。
僕はその前を通るたびに、胸が締めつけられるような気持ちになります。
「事故は絶対に起こさない」
「自分も絶対に死んじゃいけない」
そう毎日、心に言い聞かせています。
大切な家族に、あんな思いはさせたくない。
そして自分の不注意で、誰かの家族を壊してしまうなんて、絶対に嫌だ。
あの光景は、僕の心に深く刻まれています。
辛いときや、気持ちが揺らいだとき、僕はいつも思い出しているんです。
あの菊の花は本当に綺麗です。
でも、同時にとても残酷です。
その鮮やかさの裏にある深い悲しみが、痛いほど伝わってくるから。
どんな事故だったのか、僕は知りません。
亡くなった方の名前も、年齢もわからない。
でも僕は、あの場所に置かれた花を見て、心に誓っています。
僕は事故を絶対に起こさない。
起こしてはいけない。
その想いを胸に、今日もトラックを運転しています。
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